愛し愛されるチーズケーキ


プロフィール

 春下充代(はるした・みちよ)

「菓茶みきや」オーナー、「ピクニックマーケット」主宰、「ありがとうの種農育楽園」主宰

カフェ「菓茶みきや(兵庫県高砂市)」オーナー。生産者の顔が見える材料で作る「笑顔になれる魔法のチーズケーキ」を店頭等で全国販売する。2012年から加古川市日岡山公園でマルシェイベント「ピクニックマーケット」を主宰。2018年からは子どもからお年寄りまでが農業体験を通して心と命の循環を学ぶ「ありがとうの種農育楽園」を主宰する。食やカラダの専門家が協働して作る菓子「MI・TA・SU」の商品開発を行う他、自身も有機農法を学び作物を育てている。


春下さんのことを知っている方は、「春下さんの作るチーズケーキは本当に美味しい」と、口を揃えて言う

 

僕は小さい時から、誕生日には絶対にホールで買って来てもらっていたほど、チーズケーキが大好きだ

そうした個人的背景もあり、春下さんの作るチーズケーキの美味しさの秘訣を探れるのではと、今回の取材をすごく楽しみにしていた

 

なぜこんなに春下さんのチーズケーキが多くの人から愛されるのか

それを探るのが楽しみだった

ランチやカフェもできる「菓茶みきや」の店内の様子

隣では春下さんのご両親がお肉やコロッケなど、様々な食品を販売している


大切な人の笑顔が見たくて

春下さんが営んでおられる「菓茶みきや」さんは、不思議なお店だった

店内は、春下さんのご両親が経営されている精肉販売を中心としたお店と、ご自身が経営されているお店が並んでいる

 

春下さんのご両親のお店では、お肉やコロッケから、お菓子まで、幅広い食品を販売しており、お店の近くに住んでいる方が、よく買いに来る

春下さんご家族とスタッフさんは皆さん仲が良く、気さくな方ばかりで、とにかく温かい場所だった

初めてお伺いした僕にもたくさん話しかけてくださり、息子のように可愛がっていただいて、とても嬉しかった

 

 

春下さんは、もともと保育園で働いており、その頃はご両親のお店のお手伝いをしていた

チーズケーキは、小さい頃から自分で作っていた個人的な趣味に過ぎなかったそうだ

自分のために作ることもあるが、友達に作ってあげて、それを美味しいと言って食べてくれるのが嬉しかったとのこと

当時の友達から、日頃からあまりにも好評だったため、誕生日用のケーキを作って欲しいと頼まれることもあったそうだ

そうこうしているうちに、商品化してみてはという意見も増え、思い切って挑戦してみようと決意

自分が作ったチーズケーキで、大切な人が喜んでくれるのが嬉しかったのだ

 

 

今でも春下さんは、「顔が見える関係」をとても大切にしている

自分の家族、友達、知り合い…

現在はネット販売をしているが、オープン当初は、まずは身近な人たちに喜んでもらいたいという思いで、チーズケーキを作り始めたのだ

今はSNSを通して日々お店の情報を発信しているが、それ以外、大々的なプロモーションなどはしていない

それでも、たくさんの方に愛されているのは、お客様の口コミのおかげだそうだ

 

 

その日お買い物に来ていたお客さんにも、お店を知った経緯をお伺いしてみたところ、「知り合いの方から教えてもらい、来てみたくなったから」とのこと

こうして、また一人、大切なお客様が増えていくのだ

 

 

そんな「菓茶みきや」さんで働いているスタッフさんも、春下さんと同じ想いを持っている

 

バレンタインの時期に、新作メニューを作った時のこと

最後の飾り付けのところで、ケーキ屋さんでよく見る、ハートの形をした飾りを載せて完成にしようとしていた

だが、みんな何か引っかかるところがあり、それでは納得をしなかったという

 

「本当にこの飾り付けで、お客様が喜んでもらえるのだろうか?」

そう思ったスタッフさんたちは、みんなで話し合った結果、チーズケーキに合う、程よい甘さのオレンジピールを自分たちで作って、トッピングとして可愛く飾り付けをした

そうした工夫もあり、他のお店のケーキとは少し違う「菓茶みきや」さんのチーズケーキを、是非食べてみたいと思ったお客様がたくさん来ていただき、反響もすごく良かったそうだ

 

 

スタッフさん達は、ネット販売では手書きのお手紙を必ず添えている

顔は見えないかもしれないけれど、自分たちの想いを届けたい、お客様に喜んでもらいたい、という気持ちを書面にしたためている

そして、美味しくケーキを味わっていただけるように、無事に商品が届くまで、丁寧に連絡を取るのだそうだ

 

その結果、ネットのコメントでも、チーズケーキの感想と共に、「菓茶みきや」さんの心遣いへの感謝のコメントがたくさん寄せられている

 

 

自分たちが作った物を食べていただいて、笑顔になってほしい

そんなスタッフさん達の心遣いが、隠し味なのかもしれない

お客様が袋を開けやすいように折り目をつけてラッピングする

新商品の味は自分たちが納得するまで徹底的に話し合う


体に優しい食材

「菓茶みきや」さんのチーズケーキの美味しさには、もう一つ理由がある

それは、使う食材へのこだわりだ

春下さんのチーズケーキにはレモンを使用している商品があるのだが、そのレモンは、主に自家栽培で採れたものを使っている

実際に畑を案内してくださった

 

 

ちょうど収穫の時期は終わっていたのだが、レモンの木が何十本もあり、他の果物も育てていた

実は、ここで育てるレモンは、全て有機栽培で育てている

「保田ぼかし(※)」という、食物に栄養がよく行き渡る方法で、堆肥作りから行なっているのだ

 

※保田ぼかし(やすだぼかし)とは…

自然の原料を混ぜて、より食物が育ちやすい土にする、「ぼかし肥」の一種

保田ぼかしは、神戸大学の保田教授が考案した「ぼかし肥」で、主に米ぬかや油粕などで形成されている

 

春下さんが、自分のところで、わざわざ手間暇をかけた方法で採れたレモンを使っているには理由がある

それは、お客様に食べてもらう物は、体に優しい食材を使いたいと思っているからだ

 

近年、科学技術の発達によって、農薬を使って大量に作ったり、均質のものを作ったりすることができるようになった

しかし、そうしてできた農作物には、人の体に本当に良いものなのか、疑問を持っていたと言う

だから、自分が作るチーズケーキには、本当に安全で体にも優しい食材を使いたい

 

お客様に安心して食べてもらえるように、一つ一つの食材にこだわっているのだ

 

 

また、春下さんは、食材にも優しいケーキを作っている

 

料理で使うレモンは、本来なら、汁を絞った後は捨てる人が多いと思う

しかし、春下さんはそこに一工夫を加える

 

レモンの皮にもたくさん栄養が詰まっており、本来なら体にもとても優しいはず

ならば、そこも使えるのではないかと試行錯誤した結果、ジャムにしてチーズケーキに入れてみるというアイデアを思い付いたのだ

 

まず、レモンの汁を絞って、その後残った部分を湯がく

そして、手で一つ一つえぐみを取り除いた後、皮を細かく切り、それでジャムを作っていく

こうしてできた程よく甘酸っぱいジャムを、チーズケーキに入れているのだ

 

ここに「菓茶みきや」ならではの味わいを醸し出しているのかもしれない…

もちろん味もとても美味しく、「菓茶みきや」さんの人気商品となっている

 

こうした春下さんの心意気は、チーズケーキに限らず、提供する商品に様々な工夫を凝らしている

その日も、朝の仕込みの時、パンを作る際に余った端の部分を、ラスクにして販売していた

味だけではなく、質にもこだわった、人にも食材にも優しい商品を作っているのだ

春下さんの自家栽培レモンが欠かせない

パンの余った材料はラスクへ


作り手の思い

春下さんは、「菓茶みきや」さんでのお仕事の他にも、「食」のあり方を生活者みんなで見つめ直す機会を作っている

 

春下さんは高砂市で生まれ育ったのだが、ここでは人と人の距離がとても近く、子供の頃から、働いている大人達と接する機会が多く、一人一人が丁寧な暮らしをしている土地柄だそうだ

 

取材をしている時も、色んな人が僕に気軽に声をかけてくださり、どんな思いでお仕事をしているのか話してくださり、その様子も見せてくださった

春下さんのご両親、スタッフの方、ご両親の営んでいるお店にお肉を届けている方、春下さんが畑を案内する時に連れて行ってくださった石材屋の方…

 

普段の生活で体験したことがない、顔が見える関係性に、とても温かみを感じた

特に、春下さんのお母様に、「高砂で遠慮したらダメやで!」と言われたのは、すごく印象的だった

 

「ありがとうの種 農育楽園」で使う春下さんの畑

お客様がカットしやすいようにケーキによって飾り付けも工夫


一方で、多くの人にとってお手軽な食事ができることが当たり前の時代になった今、作り手の姿や思いがなかなか見えないようになってしまった

普段食べている食材が、どれだけの手間暇をかけて育てられているのか

それに気付かないまま、まだまだ食べられる食材を捨ててしまったり、自分の食生活をおざなりにしてしまったりする

そんな時代の今だからこそ、春下さんは、改めて「作り手の思い」や「食」についてみんなで考える機会を作れないかと考え、次のような活動もライフワークにしている

 

春下さんも運営している「ピクニックマーケット」では、雑貨を中心に、ものづくりをしている人たちが集まり、それぞれお店を出店して販売をする

お客様と作り手が直接交流できる機会を通して、人と人、心と心の繋がりをお互いに感じることができるのだ

また、「ありがとうの種 農育楽園」では、参加者一人一人が実際に畑の一角を使って、何ヶ月もかけて自分の手で野菜を育てる

その経験を経て、農作物を育てることがいかに大変かを、実感することができるのだ

 

いずれの活動も、作り手の思いを再認識し、より丁寧な暮らしをしていくきっかけにしてほしいと感じているのだ

 

 

身近な人が笑顔になってくれるのが嬉しくて、趣味で作っていたチーズケーキが、いつの間にかたくさんの人から愛されるように

安心して食べていただけるように、食材にもこだわった、春下さんの愛情たっぷりなチーズケーキ

 

今年の僕の誕生日ケーキは、「菓茶みきや」さんのチーズケーキで決まりだ


ライタープロフィール

佐比内優太(さひないゆうた)

 

神戸大学工学部4年生。

社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。

バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。