思いやりのリレー


プロフィール

西山雅奈江(にしやま・かなえ)

atelier Sotto(あとりえ そっと)代表。

金融機関からアパレル業界に転身。数社のメーカーを経て、1998年フリーランスとなる。2000年~現在、セコリジャパンスクール講師。2006~07年、モデリストとして、イタリア・ミラノにてGIANFRANCO FERRE'のサルトリアで勤務。帰国後、神戸のメーカーに勤務。退職後、2009年、株式会社RenModaStudio設立。

ものづくり、服づくりを通して、思いの表現のお手伝いをしながら、一緒に楽しく、ものづくり、福づくりに関わっていく。


最近はファストファッションが流行りだして、服を手軽にたくさん買えるようになった

安くて良さそうな服があれば、ついつい買ってしまう

そして、季節が変わるとまた新しい服を買って、この前に買った服は、気付いたらクローゼットの中にしまい込んでいる

 

しかし、少し前は違う当たり前があったらしい

服やカバンが欲しかったら、自分で作ったり親に作ってもらったりし、どこか破れてしまったら、縫い直して、また使っていた

全部が全部そうでは無いと思うが、少なくとも、今みたいに簡単に服を買う文化ではなかったと思う

 

そんな中、ご縁があって、洋裁教室を営んでおられる西山さんを訪ねた

洋裁とは無縁だと感じていた僕が、取材を通してどんな気付きを得られるのか、とてもワクワクしていた

日頃はお茶目な一面もある、西山さん

布業者さんが持って来てくださった布サンプルを見て、良い布は買ってしまう


気付きと築き

朝、西山さんの洋裁教室に到着

この時、たまたま僕が10年以上大切に来ていたコートが、このタイミングでどういうわけか破れてしまっていた

しかし、西山さんとスタッフの方のご好意で縫っていただき、破れていたところがどこだったのか分からないくらいに、キレイに元の状態に直してくださった

 

その様子を見ていて、あまりのすごさに感動し、僕も洋裁を実際にしてみたいと思い、その場で体験教室に参加した

せっかくなので、母へのプレゼントにしてみてはという西山さんの提案もあり、母にあげようと思い、ランチョンマットを作ってみた

ミシンを使うなんて中学校の授業以来だったが、西山さんに丁寧に教えていただき、無事に作ることができ、楽しかった

 

 

体験を終えて、なぜ洋裁教室をされているのかを西山さんに改めて伺ってみたところ、語ってくださった中で印象的だったのは、この一言

 

「洋裁教室を通して、人と人が尊重しあえるから」

 

生徒さんたちが、自分たちの作りたい物を完成させるという1つの目標に向かって頑張る中で、どうやったら自分が思い描いている作りたいものを作れるかを、一緒に考えていく

そこで生まれるコミュニケーション通して、自分にはない相手の良さを知ったり、新しい発見をしたりする

その体験を通して、お互いに思いやりを持った関係を築き上げることができることに喜びを感じていたのだ

そして、教室だけでなく、普段の生活の中でも同じように相手を思いやることで、相手との関係性を築き上げてほしい

 

西山さんが洋裁教室を通して体験してほしいことは、そういう想いだったのだ

 

 

洋裁教室を通して、すごく自分に自信がついたという生徒さんがいた

 

「自分の手でこんなにもたくさんの物が作れるなんて思ってもいなかったし、自分でも知らなかった、新しい一面を知ることができた」と微笑む

そして、それを気付くことができたのは、彼女を優しく支えてくれている、スタッフさんたちのおかげだと、感じているそうだ

 

僕もそうだったのだが、西山さんを始め、スタッフの皆さんとは自然と会話が弾み、すごく楽しく洋裁ができる

一人一人に丁寧に寄り添い、温かく見守ってくださるので、生徒さんも安心感を覚えるのだ

 

まさに、西山さんが大切にしている相手を思いやる気持ちを、スタッフの方皆さんが持っているのだろう

元の破れてしまった状態

修復後、破れていたのが全く分からなくなった


国境を超えた、思いやる心

西山さんのそうした想いが生まれたきっかけは、イタリアでアパレルのお仕事に就いていた時の出来事だったこと

 

イベントなどで作る服のデザインを決めるために、同僚や上司と意見交換をする機会がよくあったそうだが、そこでは、ディスカッションと称して、上司部下関係なく、ほとんど喧嘩のような言い争いをしていたらしい

自分がなぜこのデザインの方が良いと思うのか、お互いに主張しあって、ぶつかり合う

その勢いや剣幕がものすごかったらしい

しかし、そのイベントが終わると、ぶつかり合っていたことなど無かったかのように、お互いの目指したファッションがどう良かったのか、心から褒め称え合うらしい

自分にはできない表現をして、素晴らしい服を作り上げたことへの、惜しみない賞賛を送り合う

 

そんな様子を見て、西山さんはとても驚き、その光景に感動したと言う

 

日々の言い争いの中でも、実は相手の良いところや自分にはないところを、丁寧に見ている

だからこそ、相手を思いやることができ、素敵な関係が築き上げていける

日本とイタリアでは文化が違うとは言え、それでも、日々のやりとりの中で、相手のこと本当によく見て考えていないと、これほどの関係は築き上げることはできないだろうと感じたそうだ

 

 

日本に帰国後、西山さんはアパレル業界の会社に就職した

しかし、残念ながら、イタリアで働いていた時のような相手を思いやる文化が、ものすごく希薄だと感じたらしい

数年働いた後に会社を退社、独立し、かつて自分が感じた、相手を心から思いやることができる喜びを、洋裁教室を通していろんな人に体験して欲しいと思ったのだ

 

 

生徒さんたちが安心感を持つのは、そんな西山さんの思いをどこか心の中で感じているからなのかもしれない

そして、1つのものを作り上げた達成感と同時に、またここに来たいと思うのだろう

完成に向けて、一緒に考えていく

受講を決めた体験生と、これから何を作っていくか話し合う西山さん


モノを大切にする気持ち

西山さんの心意気に触れて以来、外出した時は、コートを脱いだらきちんと掛けるし、家の中でも服を散らかしっぱなしにすることは無くなった自分がいたりする

「モノを大切にしなさい」とよく言われるけども、そんなに意気込まなくても、それを作った人や手入れしてくれている人の姿が思い浮かべば、きっと自然とモノを大切にするようになるのだろう

 

家に帰って母へプレゼントを渡したら、ものすごく喜んでもらえた

それが嬉しかったのと同時に、誰かのことを思いながら作るものは、すごくいいものだと思った

そして、誰かを思いやって感じる喜びこそ、西山さんが洋裁教室を通して体験してほしかったことなんだと、改めて感じることができた

 

今日もどこかで、西山さんの相手を思いやる気持ちが、誰かの思いやる気持ちへと、繋がっているのかもしれない

久しぶりの裁縫だったが、綺麗に縫えたランチョンマット

たくさんの思いやりが、繋がっていく



ライタープロフィール

佐比内優太(さひないゆうた)

 

神戸大学工学部4年生。

社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。

バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。