幸せを運ぶマグロ


プロフィール

丸山和久(まるやま・かずひさ)

株式会社魚丸商店代表取締役。

昭和10年の開業以来、「良質の商品だけを新鮮なままお客様へおとどけする」を基本理念に掲げている。丸山さんは3代目の大将で、現在はデパートへの卸売はもちろん、小売も買い易いように1パックずつ、またショーケースの生本マグロもお客様のご要望に合わせ、1人前からでも販売している。

また、20年前から、通販も開始。丸山さんの目利きを通して、実店舗と同じスタイルで少量からでもお気軽に購入できるように、100グラム単位での購入が可能。


小さい頃からスポーツをしていたからなのか、昔から人並み以上には食欲は旺盛で、何より、食べるのがすごく早かった

今でも友達と食事に行くと、早食い大会に出れるんじゃないかってくらい、誰よりもご飯を早く食べ終わる

ちゃんと噛んで食べなさいよって何度も叱られているが、食事中はだいたいいつも他のことを考えているか、ぼーっとしている

食事に対してそんなにこだわりもないし、だいたいのものは何でも美味しいと思って食べている 

黒門市場にある、魚丸商店さん

いつも素敵な笑顔の大将、丸山さん


4時、中央卸売市場にて

初めて、市場というところに来た

 

テレビで見るようなとても広い場所で、たくさんの人が朝から働いていた

そして今回、中央卸売市場を案内していただいたのが、黒門市場にある「魚丸商店」の大将、丸山さん

仕入先の方へ挨拶をし、その後、競りの会場へ

そこには、ズラーっとマグロが並んでおり、あまりのマグロの大きさに、とても驚いた

 

415分になると、一斉に人が集まって来て、競りが開始

そこでの迫力は凄まじく、誰が何を言っているのか全然分からないし、いつの間にかマグロがどんどん売れていく

同じ大阪なのに、全然知らない異国の地に来たような、不思議な感覚だった

尾の状態を見て、マグロの良し悪しを見分ける

独特の掛け合いがされている、競りの様子


正直でいたい

その後、丸山さんが営んでおられる、魚丸商店さんへ移動

黒門市場で、日中マグロを販売するための、準備が始まる

 

包丁を持つと、普段はにこやかな丸山さんから、雰囲気が一変

ものすごい集中力と真剣な眼差しで、ひたすらマグロをさばいていく

食べやすい大きさに1つ1つ丁寧に切り分けていき、少しの筋も決して見逃さず、手作業で取り除いていく

移動中の車内にて、丸山さんは、「今年の目標は、丁寧にお仕事をすること」とおっしゃっていたのだが、その思いが少しずつ伝わって来た

 

その中で、僕が一番驚いたのは、作業場の整えだった

その日は丸山さんを含めて、3人の方が魚をさばいていたのだが、あんなに大きな魚をたくさんさばいているのに、自分が切るところ以外の場所が、めちゃくちゃ綺麗に片付けられていたのだ

作業が終わると毎回きちんと片付けてから、次の作業へ移る

 

自分の作業場だから、気付いたら少し散らかっているとなってもおかしくないのに、きちんと整頓されている

「お客様に対して、正直でいたい」という丸山さんの思いは、お客様に見えないところでも、その思いを込めて、丁寧にお仕事をされていたのだった

市場に入って来るマグロの状態を、入念に確認し合う

マグロをさばく時は、別人のような表情をする丸山さん


丸山さんが選ぶマグロだから

丸山さんは、ネット販売もされている

 

勝手な想像で、大変失礼だと思うのだが、対面接客をされている職業の方は、ネット販売を面倒くさいと感じて、嫌がる人が多いと思っていた

だから、丸山さんがものすごく楽しそうにパソコンに向かい合って作業されているのに、僕はとても驚いた

 

理由を聞いて見ると、「ネットのおかげで、今まで繋がれなかったようなお客様と繋がることができる」と笑顔で答えてくださった

自分の切ったマグロで、少しでも多くのお客様に幸せになってもらいたという丸山さんの正直な思いが、ストレートに伝わって来た

 

しかし、マグロをネット販売する上で、鮮度などの課題もある中で、どうして魚丸商店さんのマグロが売れているのか、すごく気になった

丸山さんは、一体どんなマグロを発送しているのか

 

実は、25年前からデパートのギフトの梱包もしており、安心してお届けできる技術を持っているとのこと

加えて、丸山さんが取り扱っているマグロは、ご自身の目で見て、食べて、鮮度の良いマグロしか送っていないと言う

 

お客様にいかに鮮度の高くて、美味しいマグロを届けることができるか

長年の研究と、丸山さんの目利きがあるからこそ、ネット販売でも、たくさんのお客様に、丸山さんの思いを届けることができているのだろう

 

そんな丸山さんの切ったマグロを、是非とも僕もお家で食べたいと思い、赤身と中とろを買って帰った

お客様に美味しいマグロを味わっていただけるように、1つ1つ丁寧に切り分けていく

まるでお肉のような艶がある、丸山さんがさばいたマグロ


食生活が変わった瞬間

次の日の朝食

 

ご飯とお味噌汁を用意し、マグロを食べるための、万全の体制を整えた

さて、どんな味なのか、ワクワクしながら一口

あまりのマグロの美味しさに、お箸が止まった

味音痴だった僕ですら、今までのマグロとの味の違いが分かるくらい、ものすごく美味しかったのだ

 

食事中は、昨日の市場や丸山さんのお仕事されている様子を思い返しながら、一切れ一切れ、ゆっくり味わって食べた

ズラーっと並んだマグロ、市場で働く人たち、丸山さんがマグロをさばく姿、丸山さんの届けたい思い

 

気付いたら、あんなに早食いだった僕が、いつもの3倍くらいゆっくり時間をかけて、ご飯を食べていたのだ

何も考えずに、ただ急いでご飯をかきこんで食べていた少し前の自分よりは、少しは心が豊かになれた気がする

 

食べ終わった後の、ホッとして、とても幸せな気持ちは、きっと食べた人にしか分からないかもしれない

丸山さんが届けたい幸せは、こういうことだったのかと、実感することができた

 

丸山さんが選んだマグロだからこそ、食べたいと思う

思い返すとまた食べたくなる、あの日の朝食

お客様との会話から、どうしたら食卓でマグロを美味しく食べていただけるかを探る



ライタープロフィール

佐比内優太(さひないゆうた)

 

神戸大学工学部4年生。

社会人になって働く前に、「価値づくり」とはどういうことなのか、自分はどういう生き方をしたいのかを追究したいと思い、現在休学中。

バーテンダー、カメラマン、メディア、ライター、e-Sports、教育など、自分の興味・関心があることに、幅広く取り組んでいる。